福祉保育労は、政府の幼児教育・保育の無償化方針に対して、7月25日に「幼児教育・保育の無償化は、すべての子どもを対象に、規制緩和をせず公平な税制による財源確保でおこなうことを求めます」とする下記の書記長談話を発表しました。
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2018年7月25日
【書記長談話】
幼児教育・保育の無償化は、すべての子どもを対象に、
規制緩和をせず公平な税制による財源確保でおこなうことを求めます
全国福祉保育労働組合
書記長 澤村 直
政府は、2017年12月8日に閣議決定した『新しい経済政策パッケージ』において、「全世代型の社会保障」へ転換することで、持続的な経済成長を成し遂げるとした。具体策として、「人づくり革命」(人材への投資)で幼児教育から高等教育までの無償化を打ち出し、一定の経験を有する介護福祉士の処遇改善をおこなって介護人材を確保することも盛り込んだ。
しかし、いずれの施策も経済対策としての観点によるものであり、子どもの発達権や高齢者の人権を保障するという観点が欠落している。また、これらの施策を実現するための安定財源として、2019年10月に予定される消費税率10%への引上げによる財源を活用することは、社会保障・社会福祉の財源は税の応能負担によるべきという原則に反している。
政府は、2018年6月15日に閣議決定した『経済財政運営と改革の基本方針2018(以下、骨太方針2018という)』に、無償化の対象を認可外保育施設に拡大して2019年10月から全面実施することを盛り込んだ。
これを受けて、2018年7月11日に全国市長会から『子どもたちのための無償化実現に向けた緊急決議(以下、緊急決議という)』が出された。
これらの経過をふまえて、ここでは、幼児教育・保育の無償化について、すべての子どもたちの最善の利益を優先するという立場と、保育労働者の労働環境の改善を求める立場から、以下の4点についての考え方を明らかにする。
1.無償化は「子どもの権利」を保障する観点ですべての子どもを対象におこなうべき
骨太方針2018は、「力強い経済成長」や「人材への投資」と結び付けて無償化を語り、高等教育の無償化については「産業界のニーズ」にまで言及している。
しかし、幼児教育・保育は、経済成長や産業界への貢献にかかわらず、それ自体が子どもの権利として無条件に保障されるべきものである。
また、無償化について、高い保育料を負担している高所得者優遇との議論もあるが、所得による負担能力の違いは、後述のように累進課税による税の応能負担によって解消すべきものである。幼児教育・保育は、すべての子どもを対象に、生存権、発達権、教育を受ける権利として無償で現物給付されなくてはならない。
2.無償化の財源は消費税増税ではなく公平な税制で確保すべき
緊急決議は、自治体に新たな負担が生じないよう、消費税・地方消費税率10%への引上げを確実におこなうことを求めている。
しかし、消費税は低所得層ほど税負担が重くなる逆進性のある税制であり社会保障・社会福祉の財源としてふさわしくない。所得階層別の保育料設定や無償化による負担軽減を、消費税増税による負担増が上まわることが懸念される。これでは、無償化の目的に沿わない。
幼児教育・保育の無償化を含む社会保障・社会福祉に要する費用の財源は、累進課税など応能負担原則にもとづく所得税や法人税に求め、所得の再配分機能を発揮させるべきである。
3.無償化による保育需要増加には、規制緩和ではなく認可保育所の増設で対応すべき
緊急決議では、「子どもたちの安全を確保し健全な育ちを保障するための保育の質と量の確保」を喫緊の課題としている。ところが、無償化による保育需要の増加への対応として、「定員の弾力化等による既存施設の最大限の活用」と「公定価格における定員超過による減算措置の撤廃または期限延長」を求めている。
これは、いわゆる「詰め込み保育」を許容することを自治体として表明するものであり、決して認めるわけにはいかない。これまでの国の政策でも、待機児童解消のために定員の弾力化がすすめられ、その弊害として保育現場では事故の増加や保育労働者の過重負担が起きている。その1番の被害者は、いうまでもなく子どもたちである。
保育所保育指針では、保育所の役割を「子どもの健全な心身の発達を図ることを目的とする児童福祉施設であり、入所する子どもの最善の利益を考慮し、その福祉を積極的に増進することに最もふさわしい生活の場でなければならない」と定めている。全国の保育所では、保育室等の面積を国が定める最低基準よりも引き上げることで、「最もふさわしい生活の場」となるようにしている。定員の弾力化によって、最低基準ギリギリまで子どもを詰め込むことで「最もふさわしい生活の場」ではなくなっては、保育所の役割が果たせない。
保育を必要とするすべての子どもが等しく保育を受けられるためには、定員の弾力化ではなく、無償化とともに認可保育所の増設を国・自治体がすすめるべきである。
4.無償化とあわせて、保育労働者の賃金・労働環境の改善をすべき
現在でも、保育士をはじめとする保育労働者の人手不足は、都市部・地方を問わずに深刻な問題となっている。その要因として、全産業平均から月額10万円も低い賃金実態と、休憩時間の保障もなく長時間の時間外労働がありながら不払い部分が多いなど、労働法令が守られていない労働環境がある。
国は、この間、処遇改善加算による賃金改善を図ってきたが、すべての保育労働者の賃金底上げにはつながっていない。また、予算確保を伴った職員配置基準の抜本的な引き上げにも消極的である。
無償化による保育需要の拡大が見込まれるなか、保育労働者の賃金・労働環境の改善がされないまま定員弾力化などの規制緩和がすすめば、さらなる労働強化によって保育現場から離れる労働者は後を絶たず、人手不足はより深刻になっていく。
福祉保育労は、国・自治体に対して、保育労働者が働き続けられるために賃金引き上げと予算確保を伴った職員配置基準の抜本的な引き上げを求めていく。また、保護者をはじめとした保育関係者の運動に結集して、すべての子どものいのちと発達が守られる保育制度の実現に向けて奮闘していくものである。
以 上
☆PDFファイルは下記からダウンロードできます
【書記長談話】「幼児教育・保育の無償化は、すべての子どもを対象に、規制緩和をせず公平な税制による財源確保でおこなうことを求めます」(2018/7/25 全国福祉保育労働組合書記長 澤村 直)PDFファイル
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