福祉保育労は11月27日、経済対策に盛り込まれた6,000円賃上げに対する見解をまとめました。全文は以下のとおりです。
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経済対策に盛り込まれた6,000円賃上げに対する見解
~経済対策に終わらせず、大幅賃上げが実現できる抜本的施策を求めます~
2023年11月27日
全国福祉保育労働組合
政府が11月2日に決定した経済対策を裏付ける補正予算には、高齢者介護職員や障害福祉サービス事業所における福祉・介護職員の処遇改善として、24年2月から5月を対象期間とした職員(常勤換算)1人当たり月額平均6 ,000 円の賃金引上げが盛り込まれました(高齢介護364億円、障害福祉サービス126億円)。その目的は、「春闘における賃上げに対し、介護業界の賃上げが低水準であることを踏まえ、必要な人材を確保するため、令和6年の民間部門における春闘に向けた賃上げの議論に先んじて、さらなる処遇改善を行う」ことです。
賃上げ自体は、物価高騰に苦しむ福祉労働者にとって当然の施策で、本来なら今年の春には実施すべきものだったという点で、遅きに失した感が否めません。その上、以下に述べる3点の問題があって、24春闘での福祉労働者全体の大幅賃上げには結びつかない極めて不十分な内容です。
全産業平均と比べて7万円も低い賃金実態を考えれば、現場の福祉労働者の受けとめは、22年の処遇改善臨時特例事業での9,000円賃上げに続いて、「またひと桁足りない」です。さらに、「私たちの仕事に対する社会的評価はこの程度なのか」というガッカリ感にもなり、福祉業界からの人材流出が加速化しかねません。
福祉保育労は、賃上げを一時的な経済対策に終わらせることなく、来たる24春闘で福祉労働者の大幅賃上げが実現できる規模での抜本的施策の早期実施を求めます。それが、結果として福祉人材の確保につながり、国民の福祉要求に応えることにもなります。
(1)福祉労働者の処遇改善には結びつきません
福祉労働者の賃金水準は長年にわたって低い水準に置かれてきました。全産業平均との月額賃金格差は、政府がすすめてきた報酬等への処遇改善加算によって10万円から少しずつ減少してきたとはいっても、今でも7万円もあります。
福祉保育労は、福祉労働者の『処遇改善』とは、最低でも全産業平均との賃金格差を解消することだと考えています。しかし、今回の施策の目的に「さらなる処遇改善」と記されていることを見れば、政府の考える『処遇改善』が賃上げ水準を合わせることに留まっていることは明らかです。今回の経済対策では、23春闘での他産業の賃上げ水準に追いつくだけで、昨年からの10万円を超える物価高騰の影響を補うことさえできません。これでは、7万円の格差は解消されないままで、福祉労働者全体の処遇改善には結びつきません。
(2)次期報酬改定で6,000円以上のさらなる処遇改善がない懸念があります
他産業では、24春闘を前にして5~7%の賃上げを表明する企業が相次いでいて、福祉業界からの人材流出の危機感が高まっています。そのため、24年4月からの介護と障害福祉サービス等の報酬改定に向けては、物価高騰の影響や他産業との賃金水準の格差を埋めるだけの賃上げの原資となる大幅な報酬引き上げを求める声が、多くの業界団体や自治体から上がっています。今回の補正予算は、24年2月から5月の4ヶ月分のみで、6月以降も別途賃上げ効果が継続されるとりくみをおこなうとされています。このとりくみは、22年の処遇改善臨時特例事業の時と同様に、報酬の加算に組み込むことだと想定されます。これをもって、「処遇改善をおこなった」として、6,000円以上の処遇改善につながる報酬引き上げがおこなわれない懸念を払拭できません。
(3)子ども分野(保育、学童保育、児童養護など)は対象外です
23春闘での賃上げが低水準だったことは、子ども分野でも同様です。子ども分野を所管するこども家庭庁の補正予算では、「保育所、幼稚園、認定こども園等に従事する職員について、令和5年人事院勧告に伴う国家公務員の給与改定の内容に準じた処遇改善を行う」(620億円)としています。人事院勧告は、国家公務員と民間の賃金格差を埋めることが目的です。このため、人勧準拠の賃上げでは23春闘での民間の賃上げ水準に追いつくだけだということに変わりはありません。 そのうえ、学童保育は市町村事業による補助金で運営されていて、人勧準拠でさえないため、今回の賃上げ施策からは取り残されています。
対象外という点では、子ども分野の他では措置制度に基づく救護施設などでも同様です。また、高齢介護や障害福祉の分野でもケアマネや相談支援員など対象外の職種があることで、現場に格差と分断が持ち込まれるという問題も残されたままです。
賃金格差に加えて、現場実態にそぐわない職員配置基準の低さもあることから、福祉労働者は長時間・過密労働が強いられています。このままでは、福祉人材が他産業に流出していく一方です。政府の雇用動向調査からも、医療・福祉の産業分野で22年の離職者数が入職者数を上回り、特に社会福祉・介護事業での入職者数の伸びが低かったことがその要因だとされています。
07年に改定された厚生労働大臣告示の「社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針」(福祉人材確保指針)の前文では、「福祉・介護サービス分野は最も人材の確保に真剣に取り組んでいかなければならない分野の一つであり、福祉・介護サービスの仕事がこうした少子高齢社会を支える働きがいのある、魅力ある職業として社会的に認知され、今後さらに拡大する福祉・介護ニーズに対応できる質の高い人材を安定的に確保していくことが、今や国民生活に関わる喫緊の課題である」として、福祉人材確保の重要性が強調されています。また、人材確保の基本的考え方には、「今後ますます拡大していく国民の福祉・介護ニーズに対応していくためには、福祉・介護サービス分野において、他の分野と比較しても特に、人材を安定的に確保していくことが求められている」、「就職期の若年層を中心とした国民各層から選択される職業となるよう、他の分野とも比較して適切な給与水準が確保されるなど、労働環境を整備する必要がある」と記されています。ところが、指針改定から16年が経過した現在でも、人材の安定的な確保ができる適切な給与水準が確保されているとは到底言えません。
指針に沿った適切な給与水準を実現する意味でも、24春闘で福祉労働者の大幅賃上げの実現が求められます。岸田首相は、経済対策を発表した記者会見で、「あらゆる政策を総動員する」と述べました。また、11月15日の政労使会議では、「来年の春闘に向け、ことしを上回る水準の賃上げの協力をお願いしたい」と呼びかけました。それならば、来年4月からの報酬改定に向けた審議会や公的価格評価検討委員会で、福祉労働者の大幅賃上げを重点課題と位置づけた改定・引き上げを真剣に議論する必要があるはずです。
福祉保育労は、国民世論にも訴えながら、介護や障害福祉サービス等の報酬、保育等の公定価格、学童保育の補助金、児童養護施設の措置費など、公的価格を大幅に引き上げること、福祉労働者と福祉を必要としている利用者・家族の双方の人権を保障する政策への転換を政府に求めて、24春闘での大幅賃上げを実現させる決意です。
以 上
◆経済対策に盛り込まれた6,000円賃上げに対する見解~経済対策に終わらせず、大幅賃上げが実現できる抜本的施策を求めます~(2023/11/27・PDFファイル)
https://www.fukuho.info/wp-content/uploads/2023/11/20231127opinion.pdf